手鏡のこと

 以前【当身のこと 手刀編2】にて、
「『手鏡』はその名の通り、手を我が顔前に鏡の如くかざす行程にこそ第一に学ぶべき内容の詰まった型だと考えています。
 手鏡を造る行程についてはバリエーションも多く、それぞれの内容も濃いですので今回はそれについては触れませんが、実は掛の小手を返して投げてしまう行程は、手鏡の形がきっちり綿密にできると指一本でチョンと押えるだけでもひっくり返ってしまうほどなのです。」
と書きました。今回はこの「手を我が顔前に鏡の如くかざす行程」について少しだけ述べてみたいと思います。
 個人的な感覚ですが、手鏡が上手くいくかどうかの六割はこの手を我が顔前に鏡の如くかざす行程にかかっていて、手を下すのに三割、小手を返すことに一割ほどの重要度だと感じています。小手を返すコツや奥の手は色々ありますが、そこにやっきになるより手鏡をつくる行程を大事にして稽古する方が、長い目で見れば大きなアドバンテージになることでしょう。

 手鏡をつくるバリエーションは様々なのですが、現在広く行われている代表的なものを四つ挙げてみます。他にも見聞した手鏡の作り方はいくつかありますが、自分自身で直接学び稽古しているもののみ学んだ順番に紹介します。

A「鍋の底を撫でるように」の口伝の方法。
B「小指から巻き上げるように」の口伝の方法。
C「おばけの手」の口伝の方法。
D『八光攻』の口伝を応用した方法。

 私が師匠中村泰峰先生から学んだのはAなので、特に意識せずに手鏡をしようとすると、いまだに自然と鍋底法になります(ちなみに中村泰峰伝だと、「鍋底からのヤジロベエ」というちょっと独特の運用をするのですが、難しいのと物凄く痛いこともあり、たまに見せることはあっても普段の稽古では指導していません)。

 四つの方法はそれぞれ少しずつ効果が違います。ですがどれが一番優れているということはありません。ただし、どれとも言えないようなあやふやなことをすると全然効きません。自分がどの方法を学んでいるのか?あるいはどの方法で修得したいのか?を明確にして稽古に臨んだ方が良いと思われます。

 文武塾の場合、入門当初はまずCのおばけ法で手順を覚えてもらっていますが、しばらくしたら他の鍋底法・巻上法・八光攻法も紹介して、どの方法で修得していくか相談しつつ生徒さんに選択してもらうようにしています。
 なぜそんな面倒なことをしているかというと、骨格や体癖なのか、あるいは性格によるものなのかわかりませんが、どの方法も学び易さの個人差が激しいとわかってきたためです。また当初は得意ではないと思われた方法でも、それに挑戦することで他の技の課題が克服されることも多々あるので、基礎である手鏡の方法をただ一つに無理に規格統一するのを避けたいということもあります。
 そうした背景もわからずに「なぜ私のやり方と違うことをあの人はやっているのか?間違いではないか?」などと余計な疑念を持たせないために早めに四つの方法について紹介してしまいます。初学者にとっては情報量が多いので、もうしわけないとも思うのですが……。

 四つの方法が少しずつ違うことを先に紹介しましたが、『手鏡』で学び修得したい根幹の内容は、四つの方法すべてに共通して必要とされていることです。その共通の内容つまり『術理』を学び、その術理を実際に運用可能である『理合』に昇華させるために型として反復稽古し心身共に習慣化することを目指していると考えています。

 四つの手鏡のつくり方に共通していること、それを文武塾では「腕を伸張収縮して用いる」ことだと定義しています。日常的な腕の屈曲伸展運動から脱却し、伸張収縮運動につくりかえることを目的とするため、あえて面倒な「手を我が顔前に鏡の如くかざす行程」で練習しているのです(力技や体捌きで小手を返し投げるだけなら顔前まで手を上げる必要はないのです)。

 そしてこの腕の伸張収縮運動に必要な大前提は力を棄てることであり、そのための姿勢や目付や心の在り様を学び修得するための最善の方法が『八光捕』だということが、『手鏡』の稽古を通してより理解できてきます。その理解に進んだ人にとっては、八光捕はもはやただの手首を掴まれた時の対処法の型ではなくなります。
 型の学習が進んでいくと、このような八光捕の理解を一新させられるような学びが何度もあります。そして以前に名人の先生から「八光捕と手鏡が本当にできれば、なんだってできる」言われたことも本当のことなのかも知れないと思えてきました。

 相手が転がったという結果・現象としてのカタチにとらわれず、転がることが起こりえる行程から術理を解き明かし、その術理がただの知識ではなく、自分の血肉になり習慣化して理合と成るために、ぜひ『手鏡という型』を活用してみてほしいと思います。

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テーマ:武道・武術 - ジャンル:スポーツ

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