雑記 合気について

 リオデジャネイロ・オリンピックも開幕し半ばも過ぎました。世界各国の代表選手たちの培った力と技の成果に感嘆しつつ、以前よりなんとなくモヤモヤとした想いに対する自分なりの解釈・位置づけが少し見えてきたような気がしています。

 そのモヤモヤとは、今や日本武道の奥義として位置づけられることも定番になってきている感のある『合気(あいき)』についてです。

 合気とはなんぞや?については、今現在でも合気を冠する武道流派の師範の方々の間でも定説は確定していない模様です。私が本門とする八光流柔術では合気武術を母体にしながらも合気という認識での表現や喧伝をあまりしない流派ですので、合気という術理について個人的な見解はありますが詳細な解説はひかえます。

 では、いったい何にモヤモヤしていたのかと言うと、一部のみの風潮であってほしいのですが、「合気の奥義を修得すれば体格や筋力の差は関係なくなり無敵である」のような妄想じみた考えを持つひともおり、また「合気のない武術は偽物である」のような偏った意見も耳にしたこともあります。

 ずいぶん前のことですが、他流の高段位の師範の口から「○○と○○と○○は合気ができているから本物だが、△△や△△なんかは偽物だ」と聞いたとき内心不快な感じを覚えたことを思い出します。なにせ注意深く話を聞いてみると、話題に挙げたうち、その師範が直接会ったことがあるのはたったの一人だけなのですから!!

 また、合気至上主義というか合気偏重な考えのひとのなかには体力・筋力依存の否定を通り越して、体力・筋力そのものへの忌避とみえるほどスポーツ的な体力上達論に嫌悪をしめす場合も見受けられることがあります。

 個人的な考えですが、武道・武術の合気的術理においては、体力・筋力依存の否定は取っ掛かりの着想でしかなく、「体力・筋力への発想の転換」が必要なのだと思います。その発想の習慣化のためには思考法や精神的な切り替えが必要なために、老荘思想や禅やその他宗教的な感性が取り入れられてきたのであって、ある種のスピリチュアル的な悟りが開ければ武術の基礎(体力や型)がなくとも奥義(たとえば合気)に到達できるような認識は間違っていると考えています。
 八光流に必要な体力とは姿勢を正し維持するだけで十分なのですが、根本的には武道・武術的にだけでなく健康のためにも体力はあるにこしたことはないと思います(スポーツでの酷使による問題はまた別の題材)。

 オリンピック(特に球技)を観ていて、瞬間の攻防の連続のなかで一瞬の技巧の変化で主導権を自分に引き寄せてしまう模様を見たとき、自分にとって合気的な術理・技法の価値はこれに近いのだなと感じました。
 兵法書『孫子』に
「三軍の衆、ことごとく敵に受えて敗なからしむべき者は、奇正是れなり」
「凡そ戦いは、正を以て合い、奇を以て勝つ」
とありますが、まさにこの状況であり、『奇』に相当するのが合気的術理・合気技法だと思います。

 八光流柔術が体力不問を謳い文句にできるのは、護身という場面では攻防の時間が短く、一瞬のうちに一度あるいは数度の奇をもって敵を制して身を護れれば良いという価値観に立つものだからです(多人数を相手に数分以上も戦うという目的は、もはや護身ではなく喧嘩闘争です)。
 スポーツではほとんどの競技はポイント制のため、長時間にわたり集中力をたもちつつ正と奇を使い分けながら正確性を維持し、なおかつ何度も同じ奇が通用するわけでもないので戦術的な駆け引きまでしなければなりませんので頭脳的な疲労も相当なものだと思います。
 勝ちあがる選手は一試合どころか数試合、一日どころか大会期間中数日という長い時間を衆目の集まる極限の環境でベストのパフォーマンスができるように体力精神力共に維持しているわけですから、素直に感嘆するどころか羨望してしまいます。

 また、彼(彼女)らが超人的な身体能力や精密な技術、強靭な精神を培ってきた過程には、地道なことから常に手を抜かず、基礎を掘り下げ、基本を積み上げ、個性を伸ばし、弱点を克服してきたということに敬服し見習うべきだと感じました。
 自分の資質で世界レベルに達せるか達せないとか、名誉やお金になるかならないかとかの動機ではなくて、武道もより純粋に愉しむためには分相応なことから地道に取り組むことが大事だと改めて気づかされました。

 合気的術理・技法も武道・武術の究極の到達点や最終目的だと位置づけせずに、やはり上達向上の手段の一つにすぎないと認識しておくべきではないでしょうか?
 その手段として練り上げられ、オリンピック級のレベルに登った時に世に示された結果が名人の合気技法の現象であり、結果の見た目だけ真似した基礎も基本もない自己満足に陥らないように用心していきたいと思います。

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テーマ:武道・武術 - ジャンル:スポーツ

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