【柔術みちしるべ ~見立ての稽古1~】

【見立ての稽古1】

 8月20日の稽古には、ちょっとした試みをしてみようと思い自宅から木刀三本を刀袋に入れて担いでいきました。

 その試みとは、二段技教伝に入ったばかりの生徒さんのために、二段技の本逆の代表的な技である『二段腕押捕』にて用いられる「袈裟に切る」という口伝を詳しく解説するためのものでした。

 「袈裟に切る」ためには先ず「真向に切る」ことができないといけないので、真向切り下ろしを稽古参加者皆さんにレクチャーし一斉に練習してもらいました。切り下ろしだけでもしっかりとマスターするのは生半可なことではありませんので、あくまで切り下ろすイメージをもってみてもらう試みでした。

 「袈裟に切る」口伝については次回少しだけご紹介しようと思いますが、この試みの結果を先に言ってしまえば成功でした。とくに新初段の生徒さんは無駄な力を抜いて姿勢を正して自分の重みを垂直に活用できるレベルに入ったところで、後はその重みをどうやって相手に伝えるのか?という段階でしたので、切るイメージをもってみてもらった効果には目を見張るものがありました。

 「○○するつもり(意識)のあるや?なしや?」というのも心的作用の一種なので、説明が難しいところです。ですが、切るつもりがなかったのがあるようになっただけで本逆の技の効きが激変するということを、掛として我が身で感じられたことは自分にとっても驚きでした。

 以前、もうお亡くなりになられた名人の先生から「君らは手刀(てがたな)をなんとなくでやっとるからダメなんだ。手刀は日本刀だと想ってやらなきゃイカン!」と数年前の静岡での師範大会後の折りに、老舗の名旅館の露天風呂に浸かってご機嫌な様子で我々若手の師範達にアドバイスしてくれた時の先生の様子がふと思い出されました。

 なるほど、こういうことだったのか!?と……。

 自分なりには手刀を日本刀として見立てて稽古してきたつもりですが、ずっと継続してきたためにその効能についてはなんとなくの実感と自信しかありませんでしたが、初めてでまっさらなひとが刀で切るイメージをもてただけでこうも変わるのか!というのは、かなり勇気づけられる思いがしました。


 さて、手刀を日本刀と見立てた時には、刀における切先は人差し指にあたります。『八光攻』などをしっかりと丁寧に稽古されている方にはこの感覚は言うまでもないことかと思います。

 そして手刀にも日本刀における『物打ち』に相当する部位があります。

 八光流の代表的な基本技の『手鏡』において小手を返し投げる方法には色々あって、
・相手の手の甲を手のひらで包むように返す。
・相手の手の甲を掌根で押し込むようにして返す。
・相手の手の甲を支え手の方の拇指で鋭く突き込むようにして返す。
などがありますが、もっとも基礎になるのが、
・相手の手の甲を手刀で切り下ろすようにして返す。
というものです。

 そこでこの手刀で切り下ろすようにして返す時、手刀がひしゃげたりしぼんだりせずに、しっかりと八光にひらいた状態で物打ち部を相手の手の甲のもっとも重みの乗せやすいポイントにフィットさせることが大切です。

 なぜ手刀での切り下ろしが初歩であり基礎なのかと言えば、初段手鏡において手刀での重みの活用を修得することが、手刀による当身や手刀による払い(受け)のコツと直接に関わっているからです。つまり護身術としての即効性のために、手刀による重みの活用の修得が最優先になっているわけです。


 ところで、こういった手先の形のことを「形にこだわっている」とか「形にとらわれている」などとして軽視される向きもあるようですが、私はそれをずいぶんとおかしな話だと思います。

 先ず、「形にこだわっている」といえるほど面倒なレベルの内容ではなく、むしろ「当たり前」のレベルの初歩的技術であり、まじめに取り組めばさほど時間や労力を必要とする内容ではないということ。

 次に、「形にとらわれない」というのは、一通りの方法をよどみなくできるひとが「自由自在に使い分けできる」ことを指して言うのであって、「知らない・できない・めんどくさい」だけのひとが、自分のやりやすいようにだけやっていることを「形にとらわれない」とは決して言いません。

 このようなひとは、結局は「自分のやりやすい形にとらわれている」わけですから。

 そのような自分のやりやすい技が普通の環境になってしまうと、普段慣れ合った稽古仲間ではない外部からのひとを相手にした時や、実際の護身の場では途端に役に立たない技になってしまいますので、普遍的に活用できる基礎的な形(手刀)を効率的に稽古できる見立ての稽古は有効なのでは?とあらためて感じた次第です。

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テーマ:武道・武術 - ジャンル:スポーツ

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